オプション取引において「デルタ0.20以下で売る」というルールは、非常に理にかなったリスク管理法です。 デルタ0.20とは、オプションのITM(イン・ザ・マネー)確率が約20%以下であることを示し、多くの投資家が「勝率80%戦略」として活用しています。
しかし実際にチャートを見ていると、「たとえデルタが0.20でも、ストライクが現値に近すぎる」「ちょっとの動きでITMになる」と感じ、売却をためらうことがあります。
本記事では、デルタだけに依存しないオプション戦略の判断基準として、「他の分析指標や相場環境を加味する方法」を解説します。
1. なぜデルタだけでは不安なのか?
デルタは「確率」を示してくれる指標ですが、価格の動きの“速さ”や“圧力”までは反映されません。 そのため以下のような状況では、不安感が強まります:
- チャートでストライクとの値幅がわずか数ドルしかない
- 直近でボラティリティが急上昇している
- 出来高やニュースで“大きく動きそうな気配”がある
つまり、デルタは“静的確率”であって、“動的な相場圧力”は別軸で評価する必要があるのです。
2. デルタ以外で活用したい分析指標
① IV(インプライド・ボラティリティ)
- オプション価格に織り込まれた「将来の価格変動予想」
- IVが高い=急な変動が予想されている相場
- 高IV時はストライクまでの値幅が狭くても、すぐ突かれる可能性が高い
▶ 対策:IVが通常平均より高ければストライクを1段階遠ざける or 見送る
② ATR(Average True Range)
- 一日の平均値動きの幅を示す指標
- たとえば、現在株価が100ドル、ATRが5ドルなら、1日で最大5ドル動くリスクがある
▶ 対策:ストライクまでの距離が1ATR以下なら要警戒
③ 出来高×板の厚さ(マーケットデプス)
- 売買板を見て、「ストライク周辺の流動性」が低いと、価格が簡単に飛びやすい
- 買い注文・売り注文が薄い価格帯にストライクがある場合、短期的な値動きで突かれやすい
▶ 対策:板が厚い価格帯の外にストライクを置くと“壁”として機能しやすい
④ POC(Point of Control)などの出来高ゾーン
- 過去に売買が集中した「価格帯の重心」=POC
- VAP(Volume at Price)分析において、価格がPOCを突き抜けると急に加速しやすい
▶ 対策:POCよりも外側にストライクを設定することで“加速ゾーン”を避ける
3. 「デルタ+テクニカル」で判断力を強化する
デルタは定量的なリスク判断として非常に優秀です。 しかしそれに「テクニカル分析による背景判断」を加えることで、精度と安心感が劇的に向上します。
チェックリスト例:Call売りをするか判断する際の自分のルール
判定項目 | 基準 |
---|---|
デルタ | ≦ 0.20 |
ストライクまでの距離 | ≧ 1.2 × ATR |
IV | 平均〜低下傾向 ※ITMに違いオプション売りをする時に考慮 |
ストライク周辺の板 | 十分な売買がある |
POC or 高出来高ゾーン | ストライクの内側にある |
→ 全てを満たすなら売却実行、ですが最初から色々と確認するのは慣れないと作業が辛いので① IV(インプライド・ボラティリティ)、② ATR(Average True Range)の確認から習慣つけて検討 or ストライク再設定を行うと良いかと思います。
4. その他の補助的な判断材料
ニュースイベント
- 決算、FOMC、雇用統計、地政学イベントなどは突発変動のリスク
- デルタが小さくても、イベント発生後に無効化されることも
チャートの節目
- 直近高値・安値、移動平均線との乖離なども価格が“反応しやすい”ポイント
- これらの節目をストライクが超えていないかを確認
5. 最後に:デルタは“基準”、判断は総合的に
デルタ0.20は、オプション戦略を安定させる非常に優れた出発点です。 しかしそれだけで“自信を持って売れる”とは限らないのが現実です。
だからこそ:
デルタを「入り口」に、ボラティリティ・値幅・板・出来高ゾーンなど複数の視点を重ねること。
この視点を持てば、
- 「近すぎるけどOKな時」
- 「見た目よりITMになりにくい時」
- 「見送るべき危険な時」
を自分の判断軸で見極められるようになります。
まとめ:自分が考えて納得できる判断を客観視できる数字とチャートで固める
- デルタ0.20でも近すぎて不安なら、価格の背景や相場の厚みをチェックしよう
- 不安な時は、売らなくても良い。見送るのも立派な判断
- 感覚を「数値」と「チャート構造」で裏付ける習慣が、投機家と投資家を分ける。
デルタは“確率の目安”でしかありません。
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